水素の意義とビジョン

水素社会のビジョン

日本のロードマップ

水素をエネルギーとして幅広く利用していくために、さまざまな団体が協力し、同じ未来を共有しています。2013年12月に入り経済産業省が中心となって国や民間企業、学識経験者などをメンバーにした『水素・燃料電池戦略協議会』が設立され、半年にわたる集中的な議論を通じて『水素・燃料電池戦略ロードマップ』が2014年6月(2016年3月に改定)にまとめられました。このロードマップには私たちの生活に水素が広がっていく段階的な目標が示されています。そこでは、今後の水素利用の拡大について、以下の官民共通の3つのフェーズで方針が示されています。

フェーズ1「水素利用の飛躍的拡大」(現在~)

すでに普及が始まっている定置用燃料電池やFCVについて、ユーザー数の飛躍的な拡大が近い将来の目標とされています。さらに業務・産業用燃料電池が市場に投入され、分散型電源としての水素の利用も拡大していきます。
現在最も普及の進んでいる水素利活用技術は、エネファームと呼ばれる定置用燃料電池によるコージェネレーション・システムです。2015年末時点で15万台以上が普及していますが、2020年で140万台、2030年に530万台が普及される予定です。これは全世帯の約1割に普及が進むということに相当します。さらに業務・産業用燃料電池の開発も進み、2017年までには実用化に向けた実証や規制見直しが行われます。
一方FCVは2015年に市販される見込みでしたが、この見込みよりも前倒しで2014年12月にトヨタ自動車から、また2016年3月に本田技研工業から量産型FCVの販売が開始されました。今後は2016年にFCVバスが市販される見込みです。また燃料電池フォークリフトの普及も始まっており、今後は船舶等にも適用分野が拡大されていきます。
FCVの普及に欠かせない水素ステーションの設置ですが、2016年度内に100か所程度という設置目標が立てられ、官民が協力して設置が進められています。
水素利用の普及が進むと省エネ・環境負荷低減効果が発揮されていきます。530万台のエネファームの普及によりエネルギー消費量は約3%削減され、CO2は約4%(年間約700万トン)削減することが見込まれます。またFCVが仮に600万台(自家用普通乗用車の全保有台数の約1割)普及すると、CO2排出量を約9%削減することが見込まれます。
この普及の拡大により価格が低下し、さらに購入しやすくなるという好循環を生みます。エネファームの価格は2020年に7、8年で投資回収可能な金額に、2030年までに5年で投資回収可能な金額となり、FCVは2025年頃に、より多くのユーザーに訴求するため、ボリュームゾーン向けのFCVの投入、及び同車格のハイブリッド車同等の価格競争力を有する車両価格の実現を目指しています。

フェーズ2「水素発電の本格導入/大規模な水素供給システムの確立」(2020 年代後半に実現)

2020年代後半までのフェーズでは水素発電(ガスタービンまたはボイラーで水素を燃焼させることによって行う発電)が導入されることにより、安定かつ大規模な水素需要が生じます。また、これに対応する為の大規模な水素サプライチェーンが構築されることによって水素コストが下がり、FCVや他の水素利活用分野への波及効果が期待できます。 フェーズ1で水素利活用技術が普及されることで、フェーズ2では水素の需給が大規模化されます。さらに水素を供給することのできる資源国との協力関係が構築され、より安価に水素を供給することが可能になります。水素利活用技術の中でも水素を最も大量に利用することのできる水素発電では、2020年代の半ばには、海外の未利用エネルギー由来水素(褐炭や原油随伴ガス等)の利用などにより水素の調達価格が発電コストを下回ることが目標とされています。2030年頃にはこの利用が本格化され、発電事業用水素発電が本格導入される見通しです。水素発電は水素の需要を安定かつ大規模にし、これに対応するための大規模な水素サプライチェーンが構築されます。

エネルギー供給源多様化の観点では、水素発電の導入によって未利用エネルギーが活躍することで利用資源の多様化が得られます。その結果、国外における情勢に左右されにくい供給体制を整えることが可能になります。

フェーズ3「トータルでのCO2 フリー水素供給システムの確立」(2040年頃に実現)

水素は、燃料電池の活用により省エネルギー・CO2削減を達成できますが、化石燃料由来の水素を用いる場合には、水素の製造段階でCO2を発生することは避けられません。地球規模の問題である地球温暖化への対応を考えた場合、必ずしも十分とは言えません。そこで将来的には、二酸化炭素回収貯留(CCS)といったCO2排出を低減する技術や、再生可能エネルギーを活用することで、よりCO2排出が少ない社会を実現する必要があります。
海外の未利用エネルギー資源(褐炭や原油随伴ガス等)から製造された水素を国内に輸送する場合、水素供給国において排出されるCO2にCCSを行うことが必要です。現在は技術開発・実証試験段階ですが、国際的な取り組みに日本も積極的に参加、協力、そして議論を主導していく方針が掲げられています。
再生可能エネルギーから水素を製造する方法には水電解が用いられますが、現在は小規模な工業用として行われています。これを大規模で安定かつ安価に水素製造できる技術開発が必要で、また風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーは天候の変化等に伴い発電量が変動するため、この対応も必要です。世界的には欧州でドイツを中心にしてPower-to-Gas (再生可能エネルギー由来の電力を水素・メタン等に変換する取り組み)が積極的に行われており、日本も技術開発・実証を進めていきます。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2014年度より、日本版のPower-to-Gasを実証する「水素社会構築技術開発事業」を開始しました。

この3つのフェーズを通して支えるのは日本の技術です。現在でも世界トップの特許技術があり、世界に先行して市場化を実現しています。例えば家庭用燃料電池は500〜1,000点程度の機器・部材から構成されており、関連産業も、素材産業を含む製造業・ガス・石油・電気等のエネルギー産業と多岐にわたります。特に補機(ポンプ・ブロワ等)については、中小企業を含む多数の企業が参画しています。これら家庭用燃料電池は電力価格に比べてガス価格が比較的安く、熱需要が多い欧州等で需要が高いと期待されている製品で、今後日本の技術が欧州等で広まることが期待されます。近い将来に世界で広がる水素関連市場で、日本が先行して技術を普及させる意義は大きく、国内産業の活性化と水素社会実現へのさらなる好循環が見込まれます。

【図 ロードマップの全体像】[2]

図:ロードマップの全体像

出典:経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ」

FCVとEVの棲み分け

燃料電池自動車(FCV)は、搭載する燃料電池で発電し、モーターで走行するため、実は電気自動車の一種であるともいえます。欧米では燃料電池電気自動車(Fuel Cell Electric Vehicle:FCEV)という呼び方も一般化しています。
また現在日本で発売されているFCVやこれから販売されるFCVは、ハイブリッド自動車と同様にバッテリーを搭載しており、いわゆるEV走行(バッテリーだけでの走行)やブレーキ時のエネルギー回収(回生)ができます。
静かで加速がよいのは、モーターとバッテリーで走行するEVと同じですが、発電のための水素を積んでいるので500km以上の走行距離を有する点や、燃料補給(充填)が3分程度でできることがEVと大きく違うところです。

【図 FCVの仕組み】[3]

図:FCVの仕組み

【表 EV、FCV、HVの比較】

  燃料電池自動車
(FCV)
電気自動車
(EV)
ハイブリッド
(HV)
駆動 モーター モーター モーターとエンジン
燃料(貯蔵形態) 水素(水素タンク)と電気(バッテリー) 電気(バッテリー) 電気(バッテリー)とガソリン(ガソリンタンク)
補給方法 水素ステーション 家庭充電、公共スタンド ガソリンスタンド
補給時間 3分程度 家庭充電で8時間程度 3分程度
航続距離 長い 短い 長い

日本では、将来の自動車といった場合に「EVか、FCVか」というような二者択一のような論調で比較されることがありますが、FCVをFCEVと呼んでいる欧米では、両者は共存する存在として理解されています。
特にドイツでは、研究開発の補助金を拠出している水素燃料電池機構(NOW)が、EVとFCVの両方の普及を支援しています。また欧州の自治体間連携プロジェクトである「HyER」では、EVとFCVの両方をプロモーションしています。
実は日本でも、EVとFCVはお互いの特徴を生かしてすみ分けると理解されています。トヨタ自動車は、小型で移動距離が短い場合はEV、中・大型で移動距離が長い場合はFCVになるとしたすみわけイメージを提示しています。
その意味では、EVとFCVは競合するわけではなく、利用用途にあわせてすみ分けていくものと考えられます。

【図 EVとFCVのすみわけ】

図:EVとFCVのすみわけ

文献リスト

  • [1] NEDO委託調査(委託先:みずほ情報総研)、「水素需給の現状と将来見通しに関する検討」(2012年)等より資源エネルギー庁作成
  • [2] 水素供給・利用技術研究組合「燃料電池自動車」
    http://hysut.or.jp/information/pdf/panel03.pdf
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