水素の取り扱いについて
水素は発見以来、さまざまな形で利用されてきました。
過去には水素が大気よりも軽い性質を利用して風船や気球用のガスとしても使われましたし、また水素ガスと酸素ガスが反応する際に発生する炎を利用して舞台や映画の照明としても利用されました。[2]
現在では、水素は化学製品を作る際の原料のほか、溶接やガラス生成、ロケットの推進燃料等に使われています。また二次電池の一種であるニッケル水素電池も、水素を活用した電池です。また、各家庭に普及してきた家庭用燃料電池「エネファーム」も、都市ガスやLPGを燃料に水素を製造し、これを燃料電池で空気(酸素)と反応させて電気と熱を作っています。
水素は、引火や爆発するというイメージがありますが、それを防ぐために厳しい安全管理のもとに利用されています。[2] 安全を確保するための大きなポイントは、
- 漏らさない
水素を貯めるタンクは非常に強固に作られていて、厳しい耐圧テストやクラッシュテストにも耐えられます。 - 漏れたら検知して止める
車にも水素ステーションにも水素センサーが設置され、常に見張っています。 - 漏れても滞めない
水素は最も軽く、拡散しやすい気体です。このため水素は、漏れてもすぐに上へと拡散し、着火しないレベルまで薄まります。
の3つです。
1つ目の漏れ出さないようにするために、水素を貯蔵するボンベ等については高い密閉性が確保されています。また、漏れ出した水素が一か所に留まらないようにするため、水素を取り扱う工場や実験施設には排気孔や排気ファンなどが設置され、素早く大気中に水素が逃げるように工夫されています。[3]
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水素を取り扱う際の安全対策
水素は反応性が高い気体です。空気中での濃度が約4~75%の範囲にあり、ここで着火源があると燃焼反応が一気に進みます。[4]
水素による爆発や火災を防ぐために大切なことは、まず保存容器からの漏洩を防ぎ、空気中での濃度がこの範囲にならないようにすることです。
一般に水素ガスを使用する施設では水素ガスが漏れた場合にも一か所に溜まらないように対策が取られています。水素が非常に軽く、漏れた際には上方向に素早く飛び散っていく性質があるので、そのような施設では天井方向に排気口や排気ファンを取り付け、万が一漏れた場合にも建物の外にいち早く逃がすようにします。
さらに、水素が無臭なことから漏れ出したかどうかを臭いでは判断できないため、建物の中にガス検知器を用意し、常に水素が漏れていないかどうかを監視しながら使用するようにします(通常は、水素濃度が1%になると警報を鳴らして施設を止めるようになっています)。
もちろん着火源を極力排しているほか、引火した場合に備えた消火器等の消火設備も準備しています。[5]
このような対策を行うことで、現在では水素を安全に取り扱う技術と方法が確立し、エネファームやFCVを安心して利用することができるようになっています。
事例から見る水素に関する誤解
「水素=危険」のイメージの原因の一つは、1937年のヒンデンブルグ号の飛行船火災だと思います。現在では、この火災は静電気で飛行船の外皮が着火して燃えたためであり、水素が燃えたり爆発したりしているわけではないことが分かっています。
また、福島原発事故以来、よく耳にするのが「水素爆発」です。こちらは例外的な状況下で水素が発生してしまい、先に示した基本原則(漏らさない、漏れたら検知して止める、漏れたら滞留させない)が守られず、水素が危険な状態になったため起こった事故と言えます。このような事故は日常の水素の利用で条件では起きないようになっています。
文献リスト
- [1] 田島慶三(2011)『図解入門業界研究 最新化学業界の動向とカラクリがよーくわかる本』p.234, 秀和システム
- [2] 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2014)『NEDO 水素エネルギー白書 2014』pp.2-3
[3][2] p.93
[4][2] p.90 - [5] 島津製作所『水素ガスの安全使用について(取扱上の注意)』 http://www.an.shimadzu.co.jp/gc/support/faq/bombe1.htm