A. 実はいろいろな物質に含まれていて、広く使われています。
水素は馴染みがないように感じるかもしれませんが、決して特殊なものではありません。
実は水素は、宇宙全体の約70%を占める物質です。太陽をはじめとする宇宙の星のほとんどは、水素をエネルギーとして光っています。地球上では酸素が結び付いて「水」として多く存在しています。水素(フランス語でhydrogène、英語でhydrogen)という言葉も、水(hydro)の素(gène)という意味で名づけられたものです。
水素は産業用途として、半導体工場や石油化学工業などで広く使われていますし、ニッケル水素電池という二次電池にも使われています。
なお水素は、日本でも初期のガス灯や都市ガスに広く利用されていました。これは水素とメタンや一酸化炭素の混合ガスで、石炭等から製造されていました(その後、輸送効率や発熱量等の観点から天然ガスへと置き換わっていきました)。
A. 燃焼させてエンジンを回したり、化学反応させて電気を起こしたりして使います。
水素をエネルギーとして利用するには、エンジンなどで燃焼させる方法や、燃料電池を用いて電気を取り出す方法があります。いずれの場合でも水素は、利用段階においてはCO2を排出しないクリーンなエネルギーですが、燃料電池のほうがエネルギー変換ロスは少なく、効率的といえます。
・エンジンの場合:水素→熱エネルギー→運動エネルギー
・燃料電池の場合:水素→電気
2014年に日本が世界に先駆けて一般販売を開始した燃料電池自動車(FCV)は水素と空気中の酸素によって発電し、モーターで駆動する自動車です。FCVはガソリン自動車よりもエネルギー効率が高く、走行時にはCO2を排出しません。また電気自動車(EV)と同様に発電した電力を外部に供給することも可能です。水素タンクを持っているのでEVに比べて2倍以上の供給能力があり、災害等の非常時における避難所への電力供給などの活用も期待されています。
すでに家庭に広く普及している家庭用燃料電池コージェネレーションシステム「エネファーム」は、都市ガスやプロパンガスから取り出した水素と空気中の酸素で発電し、その際に発生する熱でお湯もつくりだしています。
二次電池として広く使われているニッケル水素電池は、水素がニッケル中の金属に吸蔵されることで充電し、その逆反応で放電しています。そのほか、ロケットの燃料には液化水素が使用されています。
A. 水素を作る原料によっては、CO2がほとんど排出されません。
水素の環境への優しさは、水素の作り方によります。
普及が始まったばかりの現状ではFCV用として当面は工業的に天然ガスなどから作るのが現実的で、また最も安価になります。もちろんその場合には、水素を作る段階でCO2が発生しますが、FCVの効率がよいので、現時点でも全体的なCO2の排出量はガソリン車よりも少ないといえます。
将来は、CO2がほとんど排出されない方法で水素を製造することが考えられています。例えば、再生可能エネルギー(風力、水力、太陽光など)を用いて水を電気分解して水素を作ればCO2はほとんど発生しません。日本でも太陽光を利用した水素ステーションが実証されています。
また化石エネルギーから水素を製造したとしても、その時に発生するCO2を回収し、地下に貯蔵して大気中に排出しないようにする二酸化炭素回収貯留技術(CCS)を用いて、水素をCO2フリー化する技術の開発も進められています。
A. ガソリンや電気のように、安全に扱う技術が確立しています。
一般にエネルギーは、乗り物や機械を動かしたり、暖房や調理に必要な高温を得たりするために活用されますので、どれも間違って使えば危険です。ガソリンや灯油、プロパンガスも火をつければ引火しますし、電気も濡れた手で触れば感電します。ただそれらを安全に使う方法や技術が開発され、また安全に使ってきた実績があるので、安心して使っています。
水素でも、さまざまな経験や研究の結果を踏まえて、安全に使用する技術が確立しています。
水素を安全に使う基本は、①漏洩防止と早期検知、また漏れた場合の②滞留防止、③引火防止、そして万が一引火した場合の④周囲への影響防止です。FCVや水素ステーションでは、この基本に基づいた安全対策が徹底されています。
A. 日本を環境・エネルギー的に良くすることに貢献し、産業競争力の強化にもつながります。
FCVやエネファームなどの水素を利用する技術は、日本が世界の先頭を走っています。水素技術は、日本が引き続き技術立国として競争力を維持していくための、新しい、重要な産業になる可能性があります。
エネルギー資源が少ない日本は、エネルギーを海外から輸入しなければ日々の生活も経済活動も成り立ちません。また世界第三位の経済大国である日本は、人類共通の課題であるCO2排出量の削減にも真剣に向き合わなければなりません。
水素は、現在は天然ガスなどから製造されていますが、将来は再生可能エネルギーや未利用資源(褐炭や石油随伴ガスなど)から低炭素化技術も併用して製造され、日本のエネルギーの多様化と低炭素化に貢献すると期待されています。
「水素社会」という言葉も聞かれますが、それは水素100%の社会ではなく、水素も日本のエネルギーの一部となり、私たちの生活や産業を支えていくような社会です。そのような社会は数十年かけて徐々に実現していくことになります。今から準備していくことが、将来の日本や世界、将来の世代のためになるといえます。長いチャレンジは始まったばかりです。
注:褐炭=品質の悪い石炭
石油随伴ガス=油田から発生し、採算性が悪いため有効利用されていない天然ガス