水素エネルギー技術

製造

水素の製造方法 [1]

元素としての水素は、水をはじめとしてさまざまな物質に含まれています。水素を製造する場合、こうした物質を材料に化学反応を起すことで水素を取り出します。現在実用化されている製造方法を大きく分類すると以下の4種類になります。

  • 水を電気分解する
  • 天然ガスなど、化石燃料から作り出す
  • 森林資源や廃材などのバイオマスから作り出す
  • 製鉄所、食塩電解などの工場で発生するガスから副産物として生じる水素を分離する(副生水素)

水の電気分解はその名の通り、電気を流すことにより水を分解する方法ですが、純粋な水では電気をほとんど通しません。そこで、水に水酸化カリウム等の電解質を溶かし、そこに電気を流すことにより水素を発生させます。電気分解で作られる水素は純度が高いことが特徴ですが、製造には電力が必要となります。
化石燃料から水素を作る場合、天然ガスに含まれるメタン (CH4)や原油に含まれるナフサ(粗製ガソリン)など、水素と炭素からでできている物質を水蒸気と化学反応させ、水素と一酸化炭素・二酸化炭素を発生させます。さらに発生したガスから一酸化炭素や二酸化炭素を取り除き、純粋な水素を得ます。[3]
また、森林資源や廃材などのバイオマスから作る方法では、高温でバイオマスを分解して発生したガスを化石燃料の場合と同様に水蒸気と反応させ、水素を発生させます。この場合も、水素以外のガスが発生するため、その分離作業が必要となります。[4]そのほか、下水処理時場から発生する消化ガスからも同様の方法で水素を取り出すことが可能です。
副産物として生じる水素の代表的な例は、製鉄所と食塩電解工場からの水素です。コークスガス(COG)は製鉄所で鉄鋼石から鉄を取り出す際の還元剤と熱源として使われるコークスを製造する際に出るガスです。この過程で出てくるガスには水素のほかにメタン、一酸化炭素といったさまざまな種類のガスが含まれるため、それらの特性に合わせたさまざまな化学反応を組みあわせることで、最終的に純度の高い水素を取り出しています。電解工場では、電気分解で食塩から水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)と塩素を作るときに水素が副生されます。

より詳しく知りたい

電気分解で水素を作る方法[1][2]

図:塩電解

水電解の仕組み(出展:NEDO「水素エネルギー白書」P109)

電気分解で水素を作る方法として、水酸化カリウムを溶かした水溶液に電流を流すアルカリ電解法や、高分子で作られた陽イオン交換膜を利用する固体高分子電解法が行われています。
アルカリ電解法は古くから知られている水電解方法で、陰極側では水素イオンが水素へ、陽極側では水酸化物イオンが酸素と水になる化学反応が起きることで、それぞれの極から水素ガス、酸素ガスを取り出すことができます。
固体高分子電解法は、同じような反応を薄い高分子膜を利用して起こすもので、触媒を兼ねた陽極・陰極の両電極が高分子でできたイオン交換膜(電解質層)で挟み込むような構造になっています。実は、この構造はFCVで使われる固体高分子形燃料電池(PEFC)とほぼ同じもので、水素から電力を作るのが燃料電池で、逆に電力を使い水素に変えるのが固体高分子電解法といえます(→燃料電池については「燃料電池とは」で詳しく解説しています)。固体高分子電解法は、大型の水槽が必要となるアルカリ電解法と比べると設置場所が少なくてすむ一方、FCVの燃料電池と同じく電極や高分子膜のコスト低減が課題となっています。
なお、水電解は高温ほど水の分解に要する電力量が小さくなるので、セラミクスの技術を用いた高温水電解法(SOEC)も開発されています。
また、最近では、圧縮機を用いなくても同時に製造された水素を35MPa以上に昇圧できる水電解装置も開発されており、水素ステーションの効率化に向けて実用化が期待されています。

化石燃料から水素を作る[1][2][3]

写真:千住水素ステーション

東京都荒川区にある千住水素ステーションでは、都市ガスを原料に水素ステーション内で水素を製造している。

天然ガスをはじめとする、化石燃料から化学反応で水素を作る方法は、まとめて改質法と呼ばれています。現在の日本では石炭から水素を作る方法はコスト面等から主流ではなく、主に天然ガスやLPG、ナフサといった化石燃料と水蒸気を反応させ、

  • メタンなどと水蒸気を反応させて水素と一酸化炭素を生成
  • 一酸化炭素と水蒸気を反応させて水素と二酸化炭素を生成
という二段階の反応で水素を作り出しています。水蒸気を使うために水蒸気改質と呼ばれるこの方法では、反応させるために熱を加える必要があるため、製造装置はバーナーなどの別の熱源で加熱しています。また、水素を取り出す際には同時にできる一酸化炭素や二酸化炭素を取り除くための処理装置(精製装置)が必要になります。
天然ガス等を利用した水素製造は、大規模な水素製造工場で行われているほか、一部の水素ステーションなどでは都市ガスやLPGからこの方法で水素を作り供給を行っています。さらに、エネファームをはじめとする定置用燃料電池では設備のパッケージ内で都市ガス等から水素を製造し、さらに燃料電池で発電を行い、発電で出た熱をさらに利用することでエネルギー利用効率を高めています。

製鉄所ではコークス生成時に出る水素を取り出す[1][2][4][5]

鉄鉱石から鋼鉄を作る製鉄所では、最初に鉄鉱石をコークスと一緒に大型の炉に入れ、粗く生成された銑鉄と呼ばれる材料を作ります。コークスとは石炭を蒸し焼きにしたもので、製鉄所内にあるコークス炉で作られています。コークスは鉄鉱石を溶かす熱源となるほか鉄鉱石から余分な酸素などを取り除く役割を果たす重要な物質ですが、製造する際にはコークスガス(COG)と呼ばれる大量の水素を含むガスも発生します。そこで、コークスガスから硫化水素や塩素、一酸化炭素などを取り除くことで、水素を取り出して利用することができます。さらに、一酸化炭素に水蒸気と反応させて水素の製造量を増やすことも可能です。さまざまな物質を含むことから、天然ガスの場合と比べ分離工程は複雑になりますが、製鉄所ではこれまで水素を酸素バーナー用の熱源等で利用してきたこともあり、すでに水素製造施設が整えられています。

図:コークス炉のガスから水素を分離するための工程図

コークス炉のガスから水素を分離するための工程図(原田道昭、川村靖犬、林石英、四方哲夫(2010)「石炭からの水素製造技術」より引用)

その他の水素製造方法[1][2][6]

水素製造方法としては、以上の3種類のほかに森林資源や廃材、消化ガス等から作る方法をすでに紹介しましたが、他にも水を直接熱分解して水素を取り出す方法や、太陽光の光エネルギーを利用して水から水素を取り出す方法などが考えられています。
水を直接熱分解するには4000℃以上の高温が必要になりますが、複数の化学物質を介在させることで、1000℃以下でも水を水素と酸素に分解する技術が研究されています。熱源には集光した太陽熱や次世代原子炉(高温ガス炉)が検討されています。
また、太陽光で水を分解するには光で効率よく反応する光触媒の開発が必要で、現在各地の研究機関で基礎研究が進められている段階です。

文献リスト

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