水素エネルギー技術

貯蔵

水素の貯蔵方法 [1][2]

写真:液体水素貯蔵用タンク

水素製造工場に隣接して設置されている液化水素貯蔵用タンク(写真提供:岩谷産業株式会社)

水素は非常に軽いガスなので、製造後に温度・1気圧の状態でそのまま保管するには非常に大きなスペースが必要で効率的ではありません。そこで、水素を貯蔵する方法としては以下の4種類が主に使われています。

  • 高圧で圧縮して貯蔵
  • 低温で液化して貯蔵
  • 金属などに吸蔵・吸着させて貯蔵
  • 他の物質に変換して貯蔵

気体のまま高圧で貯蔵する方法は、現在もっとも一般的に使われている方法ですが、高圧水素用のタンクには普通の鋼鉄を使うことができません。というのも、高圧水素には鋼鉄などの金属中に入り込み脆くする性質があるためです。そこで、高圧水素タンクには水素で脆くならない特殊ステンレス鋼やアルミニウム合金、高分子複合材料が使われます。[3]
液体にして貯蔵する場合は、-253℃まで水素を冷却したあと、魔法瓶と同じように真空エリアを挟んだ二重構造の容器に入れて保管します。これは、真空エリアが外部との熱の伝達を遮断し、液化水素の温度が上がることを防ぐためです。とはいえ、完全な真空ではなく、また振動などによっても熱が生じるため、一定量の水素は温度上昇で気化するので、気化した水素ガスを安全に取り除く技術や、より真空に近づけ気化量を減らす研究開発が進められています。
金属に水素を吸蔵させて貯蔵する方法は、金属内に水素が入り込む現象を逆に利用して、水素を金属中に保存してしまうものです。こうした金属は水素吸蔵合金と呼ばれています。水素吸蔵合金による貯蔵は身近なところではニッケル水素電池で実用化されているほか、大規模な貯蔵施設の開発も進められています。また金属ではありませんが、カーボンナノチューブや非常に表面積の大きな分子の表面に水素を吸着させて貯蔵する方法も研究されています。
また、水素を別の物質に変換(たとえばトルエンと反応させてメチルシクロヘキサンに変換)して、その状態で貯蔵する方法も研究されています。

より詳しく知りたい

高圧水素はステンレス製タンクで保存[1]

高圧の水素の貯蔵で注意しなくてはならないのが、金属のなかに水素が入り込むことで脆くなる水素脆化と呼ばれる現象です。水素を貯蔵する施設では、数百気圧という高圧水素を保存するため、タンクをはじめとする貯蔵装置はいずれも水素脆化に強い材料を使う必要があります。
 水素の貯蔵に最も多く使われているタンクは、鉄にクロムやニッケル、モリブデンなどを加えたステンレス鋼製です。一口にステンレス鋼といってもその成分によりさまざまなタイプがありますが、とくに700気圧の水素を取り扱う水素ステーションでは水素脆化に強い種類(SUS316Lなど)を使うことが決められています。

液化水素では、水素は最後まで液体で運ぶ[1][2]

水素を液体で貯蔵する場合、水素を液化したあとは、貯蔵タンクに入れるまで液体のままに保つ必要があります。そこで、輸送中はもちろんのこと、輸送タンクから貯蔵タンクへ入れ替える際も、水素ができるだけガス化しないような方法で行います。それでも一定量の水素はガス化するため、水素貯蔵タンクには移動中にガス化した水素を必要に応じて外部へゆっくりと安全に放出するためのベント装置が取り付けられています。(なお、液化水素の製造方法や輸送方法については水素の輸送もあわせてご覧ください)

金属に水素を吸わせて貯蔵する[1][3][4]

写真:水素吸蔵合金

現在研究が進められている水素吸蔵合金と高圧水素タンクを組みあわせたハイブリッドタンクも、FCVなどでの水素貯蔵用としての利用が期待されている。(布浦達也(2011)「水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵システム」より引用) [5]

鉄が水素を吸収して脆くなることはさきほど説明しましたが、鉄以外にもさまざまな金属と水素の吸収について研究が行われるなかで、一部の金属合金が大量に水素を吸収することが1960年代に発見されました。このような性質を持つ合金は水素吸蔵合金と呼ばれています。水素吸蔵合金を水素の貯蔵用として活用する例としてはニッケル水素二次電池がいち早く実用化されており、ランタン・セリウムなどの希土類とニッケル、コバルトなど組みあわせた水素吸蔵合金を負極に使用することで、水素を利用する燃料電池と同じような働きをしています。
現在水素貯蔵用として知られている水素吸蔵合金は、金属重量の1~3%程度のものがほとんどですが、1%の吸収量でも液化水素や高圧水素より体積あたりの水素量は多くなります。一方、重量あたりの水素量は液化水素や高圧水素や少なくなります。よって、コンパクトですが重量が重くなるため、移動しない固定タイプの水素貯蔵施設向きといえます。[5]

文献リスト

  • [1] 新エネルギー・産業技術総合開発機構(2014)『NEDO 水素エネルギー白書 2014』pp.3-4, pp.98-116
  • [2] 市川勝(2008)「エネルギー貯蔵技術としての有機ハイドライドと再生型水素利用燃料電池の開発」『エネルギー貯蔵気の貯蔵・輸送 電気・熱・化学』pp.387-409 NTS
  • [3] 大西敬三(2003)『水素吸蔵合金のはなし (改訂版) 』 日本規格協会pp.25-39
  • [4] 栗山信宏(2008)「水素吸蔵・輸送技術」『エネルギー貯蔵気の貯蔵・輸送 電気・熱・化学』pp.372-385, NTS
▲ ページ上部へ