水素の意義とビジョン

水素の意義

なぜ、いまこそ「水素」なのか。
水素で未来がどう変わるのか

日本で大きく使われ始めた水素エネルギー。それが普及するとどんな未来が待っているのでしょうか。省エネルギー、エネルギー供給安定性の向上、環境負荷低減、産業振興・地域活性化など、未来に繋がる水素の利点をご紹介します。

1. 省エネルギー

地球規模では、人口増加や経済成長で人々の使用するエネルギーは年々増加する一方です。日本の中でも少しでも効率のよいエネルギーの利用が求められます。水素から電気を取り出すことができる燃料電池という電気化学装置は、高効率であり大幅な省エネルギーにつながります。

燃料電池の発電効率は小規模の設備でも大規模火力発電と同等です。遠隔地にある大規模発電所から消費地に届く電気の効率が40%程度であるのに対して、小型の家庭用燃料電池でも40%~50%の発電混率が実現しています。また同時に温水も利用すれば総合エネルギーは80%以上にもなります。家庭用コージェネレーションとして広く普及しているエネファームはこの燃料電池の特徴を利用したもので、光熱費を削減することが可能です。経済産業省は2030年にエネファーム530万台の普及という目標を掲げていますが、これが達成されると家庭部門におけるエネルギー消費量を約3%削減できると試算されます。
燃料電池自動車(FCV)も、ガソリン自動車より効率がよいため、省エネになります。FCVのエネルギー効率はガソリン内燃機関自動車の2倍程度あります。
このように、家庭部門や交通部門の省エネルギーの取組が求められるなか、燃料電池とその燃料としての水素の導入は、有効な省エネルギー対策と言えます。

【図 燃料電池のエネルギー効率】

図:燃料電池のエネルギー効率

出典:エネファームパートナーズHP

2. エネルギー供給安定性の向上

海外情勢の不安定化など国際情勢の変化によって、エネルギー資源価格は敏感に反応します。エネルギーの自給率が特に低い日本は、こうした変化に対して強くなる必要があります。
水素は、さまざまな資源から作り出すことができ、世界情勢や資源の調達先の政治情勢の影響を受けにくく安定した供給が可能となります。
最近でも、中東情勢の変化によって原油価格、さらにはガソリン価格が大きく変動します。
これに対して水素エネルギーの場合は資源の価格変動に対して別資源による柔軟な対応ができるようになります。
水素は、現在では化石燃料(天然ガスやナフサ)から作られていますが、将来的には褐炭(低品位の石炭)や原油随伴ガス等の未利用エネルギーや、再生エネルギーから作られることが期待されています。さまざまな原料を用いることでリスクの少ない調達先を選択することができ、さらに国内の再生エネルギーから水素を製造できれば、日本全体のエネルギーの輸入量を減らすことも可能です。
またFCVに水素を充填しておけば、災害時の非常用電源として利用することも可能です。もし家庭への電気の供給がストップしてしまってもおよそ1週間分の電気を賄うことができます。さらに燃料電池バスを利用すれば、避難所として使用される体育館の照明に5日間電気を供給することができるとも言われています。FCVや燃料電池バスが「動く電源車」といわれるのもこのためです。

【図 水素の製造方法】

図:水素の製造方法

出典:独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構

【図 FCバスの「外部電源供給システム」及び「V2Hシステム」を使った電力供給のイメージ図】

図: FCバスの「外部電源供給システム」及び「V2Hシステム」を使った電力供給のイメージ図

出典:トヨタ自動車「トヨタ自動車、燃料電池バスの外部電源供給システムを開発」

【図 水素の様々な製造方法】

図:水素の様々な製造方法

出典:資源エネルギー庁作成

3. 環境負荷低減

水素は利用段階でCO2を排出しません。そのため水素製造時にCO2排出量を集中的且つ効率よく削減したり、再生可能エネルギーを利用したりすることで、環境負荷低減、さらには日本のCO2排出量削減に貢献します。
燃料電池自動車のCO2排出量は水素製造源によって様々ですが、従来のガソリン車に比べて高い効率でエネルギーを消費するために低環境負荷です。

【図 二酸化炭素排出量(Well to Wheel)の比較】

図:二酸化炭素排出量(Well to Wheel)の比較

出典:財団法人日本自動車研究所「総合効率とGHG排出の分析報告書」

家庭で電気と熱を製造するエネファームの場合、石油や天然ガスなどの一次エネルギーの使用量を23%削減し、CO2も削減することができます。

【図 エネファームのCO2削減量】

図 エネファームのCO<sub>2</sub>削減量

出典:燃料電池普及促進協会(FCA)

水素の利用方法として燃料電池を用いた発電の他に、天然ガスと一緒に燃やすことで火力発電の効率を高めるとともに環境負荷を低減できます。この場合は火力発電時のCO2排出量の削減になります。また将来的に水素のみで発電することができればCO2フリーな発電方法になるため期待が寄せられています。水素発電が導入されることで水素の大規模な需要が生じるために、水素発電は水素価格低下のためにも期待されている技術です。水素価格が低下することで環境負荷の低い水素エネルギーとしての使用範囲がさらに広がり、大規模な環境負荷低減が見込まれます。
化石燃料から水素を製造する場合はCO2を排出しますが、このCO2を回収・貯留する技術も開発中です(CCS)。製造時のCO2排出を事実上フリー化するため、この方法で造られた水素はトータルでもCO2の排出がないと言えます。
また、水素を再生可能エネルギーから製造することで、これら水素利用のトータルなCO2排出をゼロにすることができます。風力発電や太陽光発電などで電気は変動を伴って出力されますが、水素に変換することで電気を安定供給することも可能になります。
また、水素を再生可能エネルギーから製造することも検討・実証されています。風力発電や太陽光発電などは天候の状態などで発電量が不安定に変動したり、またその揺らぎや電力需給のバランスが崩れる恐れがあるのでその発電したすべての電力を電力網に供給できないという問題があります。再生可能エネルギーで発電した電力を水電解で水素に変換しておけば、電力網に負担をかけることなく、いつでも必要な時に電気に戻したり、あるいはFCVの燃料に利用することができるようになります。

4. 産業振興・地域活性化

日本が強い競争力を持つ新産業分野であるため、産業の振興や地域の活性化に繋がります。世界的な市場規模は2050年で約160兆円になると予測されています。
日本国内だけでも、2030年過ぎには約1兆円を超え2050年には8兆円を超すと試算されていて、そのビジネスは広がりが期待されています。水素製造や水素ステーションなどのインフラ整備は新たな社会投資を生み出しますし、水素の利用によってCO2排出量が少ない、また災害にも強い新たなエネルギー社会が生まれる可能性があります。さらに日本の水素技術は世界最先端であり、燃料電池・水素関連の特許の数と質の高さは他国の追随を許さないと言われています。この先進性で世界の市場で日本の産業が大きなシェアを獲得できる可能性があります。
しかしすぐに黒字化できるビジネスではないため、開発企業は力を合わせて努力を続けています。既に述べてきた意義のある水素社会を構築するためには、様々な課題をクリアする必要があるからです。人々に安心して水素を使ってもらうためには安全技術の開発や法律の整備、さらに身近に使ってもらうためのコスト低減をしなければなりません。
将来の安心できる社会を構築するためにはみなさんで力を合わせて今から少しずつ変化していくことが重要なのです。

5. 実現に向けて

これらの水素エネルギーの利点を実現するには、そのような未来に対する共通のビジョンと、国や企業の意思が欠かせません。我が国では2017年12月に、世界に先駆けて水素社会を実現するための「水素基本戦略」を決定しました。また経済産業省は2014年6月に策定した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を2019年3月に改訂し、基盤技術のスペック・コスト内訳の目標を設定しました。

図:水素基本戦略

出典:経済産業省「水素基本戦略」

図:水素・燃料電池戦略ロードマップ

出典:経済産業省「水素・燃料電池戦略ロードマップ」

2020年12月に発表され、2021年6月に具体化された「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では、水素はアンモニアとともに14の重要分野の一つに位置付けられ、「水素は、発電・輸送・産業等、幅広い分野で活用が期待されるカーボンニュートラルのキーテクノロジー」と期待されています。2030年には水素導入量を最大300万トン(既存需要200万トンを含む)とし、うちクリーン水素(化石燃料+CCUS/カーボンリサイクル、再生可能エネルギー等から製造された水素)の量はドイツが2020年6月に発表した国家水素戦略で掲げる再エネ由来水素供給量(約42万トン)以上を目指すとしています。また2050年には2,000万トン程度の供給量を目指すともしています。
2018年10月には、経済産業省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が世界で初めて閣僚レベルが水素社会の実現をメインテーマとして議論を交わす「水素閣僚会議」(第一回)を開催し、東京宣言を発表しました。

図:第一回水素閣僚会議の様子

出典:第一回水素閣僚会議の様子

第一回水素閣僚会議での「東京宣言」

  1. 水素供給コスト及びFCV等の製品価格の低減加速化に向けた技術のコラボレーション、基準や規制の標準化やハーモナイゼーションの必要性
  2. 水素ステーションや水素貯蔵に関する水素の安全性の確保や、様々な地域特性に応じたサプライチェーンの構築など、水素利活用の増大に向けて、各国が連携して取り組んで行くべき研究開発の推進
  3. 水素社会実現に向けた認識の醸成・共有に資する水素ポテンシャル、経済効果及びCO2削減効果に関する調査・評価の意義
  4. 水素ビジネスの投資拡大等につながる社会受容性向上のための教育や広報活動の重要性

さらに政府は、2019年9月に第2回水素閣僚会議を開催し、各国の水素・燃料電池に関する行動指針として「グローバル・アクション・アジェンダ」を発表しました。

図:第二回水素閣僚会議の様子

出典:第二回水素閣僚会議の様子

第二回水素閣僚会議での「グローバル・アクション・アジェンダ」

  • 世界目標の共有(例:今後10年間で水素ステーション10,000か所、燃料電池システム1,000万台等)(“Ten, Ten, Ten”)、モビリティ分野におけるインフラ整備・市場拡大
  • 水素の海上輸送拡大に向けた国際的なルール整備、貯蔵・輸送のための技術開発
  • 水素発電や産業利用といった多様な分野での水素利用の促進に向けた技術の実証
  • 国際機関による水素需要見通しに関する調査の実施
  • 今後の水素利用拡大に向けた情報共有や啓蒙活動

2020年の水素閣僚会議はオンラインで開催され、13人の閣僚を含む23の国・地域・国際機関の代表者と25の企業・自治体等の代表者からメッセージが寄せられました。同時に「グローバル・アクション・アジェンダ・プログレスレポート」が発表されています。

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