水素の意義とビジョン

海外各国での取り組み

アメリカの水素エネルギー利用への取り組み

米国連邦政府は、2023年6月に「クリーン水素戦略&ロードマップ」が定められ、クリーンな水素の需要量を2030年に1,000万トン、2040年に2,000万トン、2050年に5,000万トンと定めました。
さらに2024年には全米で7か所の「地域クリーン水素ハブ」が定められ、1か所につき70億ドルの投入がきまりました。再生可能エネルギーでの水電解、原子力発電での水電解、化石燃料改質とCCSの組み合わせなど、地域ごとに多様な水素製造が採用されており、さらに交通用、産業用などの多様な水素利用が想定されています。なお米国は2025年1月に新政権にましたが、新政権の方針はまだ不明です。

米国地域クリーン水素ハブ
水素ハブ 水素製造 水素輸送・貯蔵 水素利用
Appalachian Hydrogen Hub
(アパラチア水素ハブ)
化石燃料の転換、水電解 パイプライン、
水素ステーション、
CO2貯留
FC鉱山車両、大型車両、重工業
California Hydrogen Hub
(カリフォルニア水素ハブ)
化石燃料の転換、水電解 カリフォルニアとパシフィックノースウエスト間で輸送、
水素ステーション
バックアップ電源、大型車両、荷役機器、公共交通
Gulf Coast Hydrogen Hub
(メキシコ湾岸水素ハブ)
化石燃料の転換、水電解 パイプライン、
岩塩洞窟貯蔵、
水素ステーション
大型車両、発電、アンモニア、製油所・石油産業、船舶燃料
Heartland Hydrogen Hub
(ハートランド水素ハブ)
化石燃料の転換、水電解 水素貯蔵設備とパイプラインを共有化 肥料、発電
Mid Atlantic Hydrogen Hub
(ミッド・アトランティック水素ハブ)
化石燃料の転換、水電解 パイプラインの拡張、
バス整備工場の拡充、
水素ステーション
大型車両、ごみ収集車・清掃車、発電、コージェネレーション
Midwest Hydrogen Hub
(ミッドウエスト水素ハブ)
化石燃料の転換、水電解 水素ステーション 鉄鋼・ガラス製造、発電、製油所、大型車、SAF
Pacific Northwest Hydrogen Hub
(パシフィック・ノースウエスト水素ハブ)
水電解 カリフォルニアとパシフィックノースウエスト間で輸送 大型車、港湾、ピーク発電所・発電機、製油所、データセンター

米国での水素エネルギー開発の大きな理由の一つがエネルギーセキュリティで、石油の脱他国依存の一環として日本と同様に2000年頃からFCVの研究開発が行われてきました。
米国50州のうちで最も熱心にFCV普及と水素ステーション整備に取り組んでいるのがカリフォルニア州です。カリフォルニア州では、自動車に対する二酸化炭素も含めた排ガス規制「ゼロエミッションビークル(ZEV)規制」を2009年から実施していることもあり、水素ステーションの建設などのインフラ整備にも積極的です。カリフォルニア州のブラウン知事は2013年9月にクリーン自動車の利用拡大を定めた州法に署名し、州内で100か所まで水素ステーションを整備する方針が定められました。2024年末現在では、カリフォルニア州を含めて全米の水素ステーション数は50か所程度となっています。
2024年には全米で7か所の「地域クリーン水素ハブ」が決まり、1か所につき70億ドルの投入がきまりました。なお米国は2025年1月に新政権にましたが、新政権の方針はまだ不明です。

世界の国際的企業が水素利用推進のための国際組織を設立

2017年1月に、世界の政治・経済のリーダーが集まる世界経済フォーラム(通称「ダボス会議」)にて、世界的な企業によって「Hydrogen Council(水素協議会)」が設立されました。
この協議会は、水素を利用した新エネルギー移行に向けた共同のビジョンと長期的な目標を提唱するためのグローバル・イニシアチブとされています。
当初は13社の集まりでしたが、現在は140社に拡大しています。

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アメリカ各州での取り組み

現在、アメリカ国内でもっとも水素利用が進んでいる州がカリフォルニア州で、すでに燃料電池自動車が約1,8000台走行しているほか、水素ステーションが50か所設置されています。同州では自動車メーカーに対して二酸化炭素を含めた排ガス規制「ゼロエミッションビークル(ZEV)規制」を2009年から導入しており、自動車メーカーは電気自動車や燃料電池自動車など二酸化炭素を排出しないで走れる自動車(ZEV)を一定割合で販売することが義務づけられています。そのため、多くの自動車メーカーが同州向けとしてEVや燃料電池車の販売を計画しています。
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ヨーロッパ各国の水素エネルギー利用への取り組み

ヨーロッパは、2020年7月に「水素戦略(気候中立のための水素戦略)」が策定され、気候変動対策として水素展開が進められています。特に再生可能エネルギー由来水素の重要性を強調しており、2030年の水素需要量を1000万トンと定めました(約半分が欧州内での製造、半分が輸入としています)。さらに2022年のウクライナ危機をうけて、ロシア産天然ガスの輸入量策店のために、この水素導入目標を倍増しました(やはり分が欧州内での製造、半分が輸入)。

ヨーロッパ各国のなかでは、ドイツがいち早く水素のエネルギー利用に向けた計画を進めてきました。同国では2004年からFCVと水素ステーションの実証プロジェクト「Clean Energy Project(CEP)」が開始されているほか、「水素・燃料電池技術革新プログラム(NIP)」が2007年より始まり、技術開発への政府からの資金投入が行われています。さらに、2009年にはFCVと水素ステーションの全国的な普及を目指したインフラ整備を検討する「H2 Mobility」が発足しました。H2 Mobilityは政府と自動車メーカー、エネルギー会社をメンバーとする官民一体のプロジェクトで、2016年以降の水素ステーションの展開を進めています。
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ドイツは2020年6月に水素戦略を策定、2023年7月に改訂しました。欧州の水素戦略と同様に、再生可能エネルギー由来水素を強調しています。

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欧州における取り組み

欧州は、2019年に始まったクリーンディール(2050年の気候中立とクリーン技術の推進)の一環として、水素普及も方針として掲げられています。2020年7月には「水素戦略(気候中立のための水素戦略)」が策定され、2050年の気候中立には再生可能エネルギー由来水素が必須とし、2050年のエネルギー需要の24%をクリーン水素が占めると予想しました。そのために水素の製造・利用を拡大するとし、2030年のクリーン水素需要は1000万トンで、うち域内製造は560万トン、輸入は440万トンと定めました。また域内製造される水素と輸入水素をスムーズに連結させるため、欧州全土に5本の基幹となる水素パイプライン(欧州水素バックボーン)を構築するといっています。さらに2022年のウクライナ危機をうけて、ロシア産天然ガスの輸入量策店のための政策「REPowerEU」が2022年3月に定められ、ロシアの化石燃料から独立するという目標の元、クリーン水素の普及目標を倍増させました(域内製造は1,000万トン、輸入は1,000万トン)。なお欧州では、水素は脱炭素化と脱ロシア産天然ガスの重要なツールですので、化学工業、製油所、産業用熱源、交通(自動車、トラック、鉄道、船舶)等に活用する予定です。

ヨーロッパ諸国のなかで、水素のエネルギー利用に早くから取り組んだのがドイツで、2004 年には燃料電池自動車と水素ステーションの実証プロジェクト「Clean Energy Partnership(CEP)」がスタートしています。CEPはDaimlerやBMW、VW、Linde といったドイツ企業に加えトヨタ、ホンダ、日産やGMやFordも参加したプロジェクトで、当初はベルリンで行われるFCV・水素ステーションの実証を行っていました。現在のCEPは、ベルリンのほかデュッセルドルフ、ハンブルグなどへも拡大し、CEPの枠組みで水素ステーション整備が進められてきました。
さらに2009年には2015年以降の水素インフラ整備を検討する組織「H2 Mobility」が結成されています。こちらも、CEPと同じくドイツ企業のほかに日本・アメリカの自動車メーカーも参加しています。
ドイツでは2020年6月に水素戦略を策定し、2023年7月に改訂しました。欧州の水素戦略と同様に、再生可能エネルギー由来水素を強調しており、2030年の水素需要需要を約300~400万トンとしています。さらに、世界にMade in Germanyの水素技術を展開することも掲げています。自動車用途では、乗用車よりも商用車の普及を重視しています。

韓国の水素利用への取り組み

韓国は、韓国版H2 Mobilityである「HyNET」を2019年3月に設立し、官民挙げて水素ステーション整備を進めています。2019年末で24か所が開所していますが、2020年末までに100か所以上の整備を目指しています。普及目標は、2022年に310か所、2040年に1200か所です。
韓国の水素ステーションマップはこちら

韓国は2022年に3アップ戦略(規模のScale-Up、インフラ・制度のBuild-Up、産業・技術のLevel-Up)を発表、クリーン水素サプライチェーン構築と水素産業育成で世界1位を目指すとしています。

「Hydrogen Council」

2017年1月に、日本企業を含む世界企業が集まり、水素利用を推進するための国際組織「Hydrogen Council」が設立されました。当初は13社の集まりでしたが、現在は140社に拡大しています。
Hydrogen Councilは産業界全体の要望や提言をワンボイスで各国政府に届けるとともに、各種の調査や将来予想に関する報告書を発表しています。

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